悪い病気には必ず兆候がある ②

心筋梗塞・狭心症

動脈硬化で粥腫というおできのようなものができて、冠動脈が狭くなるのが狭心症、血栓で詰まってしまうのが心筋梗塞だ。心筋梗塞は突然発症するケースも 多く、兆候を見つけるのが難しいこともあるが、多くの人に共通した予兆があるという。虎の門病院(東京都港区)循環器センター内科部長の石綿清雄医師が指摘する。

 

「最も典型的なのは、いつもと同じ行動をしているのに、前胸部、みぞおちのあたりが痛むパターンです。それも一点ピンポイントではなく、胸全体に重い痛みが現れるのが特徴。例えば、階段の途中で胸が痛くなり上れなくなる。普通に歩いているのにひどく息が切れるなど。

 

 このような症状が急に出てきて、時間と共に悪化していくのを見逃さないことが大切。じっとしているのに胸が痛くなる人もいます。こうなると不安定狭心症といって心筋梗塞に移行する直前の症状です」

 

 心筋梗塞の多くは、明け方から午前中に発生することがわかっている。「前日、遅くまで仕事をして睡眠不足のまま早朝からゴルフに出かけ、倒れる人 もいます。特に注意が必要なのは、その日の最初のティーショットや、勝負を決めるパターの瞬間。いずれも極度の緊張がかかるため、心筋梗塞になりやすい」 (石綿医師)という。狭心症を持っている人は、特に注意したい。

 

 見逃されやすいこんな兆候もある。

 

あごや歯の痛み・・・虫歯でもないのに、あごのあたりに固く締めつけられるような痛みを感じる。歯が浮く感じがする

 

腕の痛み・・・特に左腕内側にだるい痛みがあり、力が抜けるような感じがする

 

 血圧やコレステロール値が高く、肥満傾向にある人がかかりやすいので生活習慣にも気をつけたい。

 

片手が動かなくなる---脳卒中

 脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の総称。3つの病気は、この順に多く、日本における患者の割合はそれぞれ、約80%、16%、7%と なっている。この中で、一番特徴的な兆候があるのはクモ膜下出血で、それは頭痛だ。荏原病院(東京都大田区)総合脳卒中センター神経内科医長の長尾毅彦医師が言う。

 

「頭痛持ちの人が経験しているそれとはまったく違い、何時何分に発生したと断定できるほど、激しい頭痛が突然襲ってきます。経験した人は、鈍器で頭を殴られたような衝撃だと話します。症状だけでは病気を断定はできませんが、景色がだぶって見えると訴える患者さんもいます」

 

 脳梗塞と脳出血の場合はどんな兆候が現れるか。最近、欧米では「Act FAST」というキャンペーンが展開されている。

 

F=face(顔)
A=arm(腕)
S=speach(口=言葉)
T=time(時間)


 つまり、顔と手と口に症状が出たら脳卒中を疑い、時間が大切なので、すぐに行動せよ(act)という意味だ。

 

「片側だけ顔面がゆがむ、片手が動かなくなる、ろれつが回らなくなる、といった症状が現れたときは、いかに早く対処するかが重要となります。キーワードは片側。

 

 脳卒中は『上半身の片側で異常が起きる』。右脳か左脳のどちらかの血管に事故が起こる(破裂する・詰まる)と発症するので、ダメージを受けた脳の反対側の体に異常が生じます。

 

 両手の異常だと脳卒中の疑いはほぼゼロになります。FASTは非常に重要で、顔・手・口のいずれかに不調をきたしたときは、8割近い確率で脳卒中を起こしています。どれか一つでも該当した場合は、速やかに119番通報したほうがいい」(長尾医師)

 

 もう少し詳しくFASTを説明しよう。

 

●(ブルー)[顔(F)]

 ひと目で顔の片側がいびつになっているとわかる人もいれば、違和感を感じる程度の軽いものもある。目をつぶって歯を剥き出しにして「イーッ」と言うとわかりやすい。普通なら左右均等の表情になるが、脳卒中の場合は、片側がひきつる。

 

●[腕(A)]

 片腕が完全に力が入らず、ブラブラになっていればわかりやすいが、握手をしたときに、何か変だなと思う程度の症状しか出ないこともある。両手を地 面と水平に前に突き出し、手のひらを天井に向け、目をつぶってみよう。脳卒中の場合は、片腕だけが意識せずとも徐々に下がっていく。

 

●[口(S)]

 ろれつが回らなくなったり、酔っぱらいのような話し方になる。人によっては、突然ボケたように、人の話が理解できなくなる。

 

●[時間(T)]

 発症から2時間以内に病院に運ばれ、条件に合致していれば、血栓溶解剤(t-PA)を使える可能性がある。これに間に合わなくても遅くとも12時 間以内に適切な治療を受けられれば、症状は3分の1程度まで回復することも多く、場合によっては完治させることができる。だが、発症から1日以上経ってしまうと、回復する確率はかなり低くなる。

 

 脳の病気では、TIA(一過性脳虚血発作)にも注意が必要だ。脳梗塞の症状が出ても、多くは1時間、場合によっては5~10分で症状が消えてしまうケースだ。

 

 以前は、軽い脳梗塞の前兆とされたが、最近、最重症の脳梗塞の前触れであることがわかってきた。TIAが起きた48時間以内に、非常に高い確率で"本番"が起きる。症状が収まると、安心して放置してしまう人が多いが、注意が必要だ。

 

「脳卒中は、本人がおかしいと感じても、自分では何もできない場合が多い。家族や周囲の人に気づいてもらえるか、対処法の知識があるかどうかが非常 に重要になってくる。夕食で箸がうまく使えなかったのを、単なる疲れと勘違いして寝てしまったら、翌朝、半身がまったく動かなくなってしまったという例も 多いのです」(長尾医師)

 

釘を踏んでも痛くない---糖尿病

 心筋梗塞、脳卒中を引き起こす要因にもなっているのが糖尿病だ。

 

「心筋梗塞や脳梗塞になった人を検査すると、糖尿病と診断されていない人でも、約半数に血糖値の異常が見つかります」

 

 そう語るのは、糖尿病の啓発に力を注ぐ菅原医院(東京都練馬区)院長の菅原正弘医師。

「初期には何の兆候もないので、気づいたときには手遅れの状態まで進んでしまっていることが少なくありません」

 

発見が遅れるほど、合併症のリスクが高まるのだ。血管からじわじわ進行する"サイレントキラー"の兆候を見逃さないためには、「罹患期間がカギ」となる。比較的早期に現れるのが、神経障害だという。

 

「血糖値が上がり始めて5年ほどで、足の指先がしびれる、足裏がじんじんするなど、足の末梢神経に症状が出てきます。中には、『濡れた靴を履いて歩いている感じ』などと表現する人もいます。

 

 急にふくらはぎがよくつるようになったとか、冷えやほてり、便秘や下痢、胸やけ、立ちくらみなどの症状が出ることもある」(菅原医師)

 

 また、物が見えにくくなる、むくみがあったり、尿たんぱくが出たりするなど、目や腎機能に異変が現れたら、高血糖が10年以上続いている可能性が高い。

 

「神経障害が進むと、違和感は痛みに変わり、徐々にそれさえ感じにくくなっていきます。最終的には『釘を踏んでも痛くない』という状態になる。痛みがないと、細菌感染して壊疽を起こしていても気づきにくく、血流も悪いため、足を切断しなければならなくなることもあります」

 

 合併症の中でも、腎不全で人工透析が必要になったり、網膜症で失明の危険が出てきたりするのは、10年、20年と気づかないまま放置してしまった結果だ。

 

 また、やたらとのどが渇く、体重の減少などの症状は、病状が進行している状態を示すサインのこともある。

「とにかくのどが渇くので、1日に2~3リットルを普通に飲む。また、水代わりに清涼飲料水を飲んでいると、それが糖尿病を悪化させていることもあるので気をつけましょう」(菅原医師)

 

 さらに、男性の場合は、神経障害によるEDが起きているケースもあるという。

「動脈硬化が末梢に現れた症状のひとつですから、加齢に伴うものと決めつけず、次のようなリスクファクターを多く持っている人は糖尿病を疑ってください」

 

 そのリスクファクターとは、遺伝、メタボ、ストレス、睡眠不足、喫煙、過度の飲酒、運動不足、動物性脂肪の多い食生活を送っている、など。

「特に、親・兄弟に糖尿病の方がいる人、現在スリムでも、過去に太っていた時期がある人、タバコを吸う人、酒豪の人は、インスリンの働きを落とす因 子を多く持っているので、一度は血糖値を調べるという意識を持ってほしい。正しい診断をするには、食後の血糖値だけでなく、空腹時の血糖値も調べてもらう ことが大切です」(菅原医師)

 

 日頃の生活習慣の中に潜む、悪い病気の兆候。それに気づくか気づかないかで、その後の人生が大きく左右される。知識があれば、命の危険を回避できるはずだ。

 

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